福岡家庭裁判所 昭和41年(家)920号 審判 1966年12月23日
申立人 野上郡蔵(仮名)
相手方 野上正男(仮名) 外四名
主文
申立人に対し、
相手方野上正男は即時に三、五〇〇円および昭和四一年一二月一日以降毎月末限り一ヶ月三、五〇〇円を
相手方野上照雄は即時に一、五〇〇円および昭和四一年一二月一日以降毎月末限り一ヶ月一、五〇〇円を
相手方野上公平は即時に一、〇〇〇円および昭和四一年一二月一日以降毎月末限り一ヶ月一、〇〇〇円を
相手方野上治は即時に一、〇〇〇円および昭和四一年一二月一日以降毎月末限り一ヶ月一、〇〇〇円を
各支払え。
申立人の相手方小山福子に対する申立を却下する。
理由
(本件申立の要旨)
申立人は相手方等の父であるところ、当事者間に本年一月調停の席上において、相手方らは申立人に対し一ヶ月五、〇〇〇円の扶養料支払をする旨の合意が当事者間に成立したので、右調停の申立を取下げた。しかしながら相手方は右約束を履行せず、申立人には借財もあるので相手方らに対し、一ヶ月合計二〇、〇〇〇円の扶養料支払を求める。
(当裁判所の判断)
戸籍謄本、本件記録、昭和四〇年家第一六五三号扶養事件記録同四一年家第一六五号扶養事件記録中の各調査報告書によると次の事実を認めることができる。
申立人と相手方らは親子であつて、相手方正男(昭和三年四月五日生)は申立人と亡キミ子間の長男、相手方照雄(同五年四月二五日生)は二男、相手方公平(同八年八月二三日生)は三男、相手方福子(昭和一一年一月二五日生)は二女、相手方治(同一八年三月三一日生)は六男であり、申立人とキミ子の間には他に四男美智雄(同一四年一月一一日生)、五男孝行(同一六年九月一日生)がいる。
相手方らは母キミ子存命中は申立人と母の許で成長して来たのであるが、母が昭和一八年一一月に死亡し、申立人が同二〇年頃他の女性と事実上の再婚をしてからは申立人夫婦(事実上)と子供らの折合が悪くなり、申立人ら(当時長男中学三年)は別に暮し、兄弟のみで暮していた相手方らの許には時に生活費を支給するのみで、半ば放置していたため、相手方らは専ら長男、二男、二女が面倒を見て成長をして来た。
相手方らが大きくなつてからは申立人と相手方らはほとんど没交渉の状態で過して来た。その後申立人は昭和四〇年頃事実上の妻を亡くし、一人になり、病弱になつたため相手方らに扶養の請求をするに至つたが、相手方らはいずれも上記のような生いたちをしたため、申立人に対し長い間の悪感情をもつており容易に扶養に応ずる気持になれない状態にある。
以上の事実が認められ、前記親子関係からすると、相手方らには申立人に対し法律上の扶養義務があるけれども、前記のような過去の親子の状態は扶養の態様額を定めるについて、相当程度考慮すべきが相当であると考える。
先ず扶養の方法について考える。
前掲証拠によれば、申立人は現在六五歳であり、一人暮らし且つ病身であることが認められ、これらの事実によれば、一般的には子のうちの誰かが引取り扶養し、他が金銭で分担することが至当であるが、前記の事情を考慮すると、現段階では金銭による扶養をさせる方がよいと考える。
よつて相手方らの各分担すべき額について考える。
前掲証拠によると、各当事者の生活状況は次のとおりであることが認められる。
(イ) 申立人はもと店舗を借りていた家屋の二階一間を借りて病気がちであるが一人で生活保護法により一ヶ月八、〇〇〇円内外の扶助を受けて生活をしている。
(ロ) 相手方正男は○○相互銀行に勤務し、同銀行から受ける平均月収五〇、〇〇〇円の収入で妻と小学校二年生の長男の三人暮らしであり、賃料一、〇〇〇円の準社宅に住み生活程度は普通である。
(ハ) 相手方照雄は○○○○荘に調理師として住込み勤務し平均月収二五、〇〇〇円ないし三〇、〇〇〇円位で家族は別に賃料一ヶ月七、五〇〇円のところに住んでいる。家族は妻、小学校一年の長女、幼稚園通園中の長男、二歳の二女の五人で生活はやつと暮らせる程度である。
(ニ) 相手方公平は○○○株式会社に運転手として勤務し、月収三五、〇〇〇円位で妻と二歳の長女で借家に住み、生活はやつと暮らせる程度である。
(ホ) 相手方福子は他の男性の世話になつており、その間に幼い二男一女があるが、現在事業不振のため世話になつている男から月々貰つていた一五、〇〇〇円も滞りがちで生活が困難である。
(ヘ) 相手方治は大阪○○○本店に調理士として働き、独身で月収二五、〇〇〇円を得ている。
以上本件各当事者の生活状況、前記認定の相手方らの生育状況更に前掲証拠によつて認められる本件当事者間の扶養については、これまでも再々調停が開かれ、本年五月九日当裁判所において本件当事者間に相手方に対し扶養料として正男において二、〇〇〇円、照雄において一、五〇〇円、公平、治、美智雄において各五〇〇円計五、〇〇〇円の支払をする旨の合意が成立したが調停を成立させることなく、申立人に対し誓約書を入れることによつて終わつたこと、以上の事実、その他諸般の事情を綜合するときは、申立人に対して支払うべき扶養料の各分担月額は相手方正男が三、五〇〇円相手方照雄が一、五〇〇円、相手方公平が一、〇〇〇円相手方治が一、〇〇〇円をそれぞれ負担するのが相当である。(右を越える生活費はこれまでどおり国家の補助によるもやむを得ないと考える。)
尚相手方福子に対する申立は前記認定のとおり福子自身に扶養能力がないと認めるので右申立は却下することとする。
とすれば、その余の相手方は申立人に対し、前記認定の分担額を申立人が扶養の請求をし、相手方らがおそくともこれを了知したと認められる本年一一月一日から毎月末日限り支払うべきであるところ、同年一一月分についてはすでに履行期が到来しているので即時に支払うべきものと認める。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 丹宗朝子)